ヤンキーの彼

4月から社会人となった娘には、小学6年から付き合っている彼がいる。
悲しいことに今年10周年を迎えた。
彼は高校を2年で中退した「ヤンキー」である。
出席日数の不足や素行不良が原因ではなく、ただただ学力が足りなかったアホなヤンキーなのである。

やっとキーボードで小さい「っ」が打てるようになったとか、「最安値」を「サイアンチ」と読んでいたので会話が全く噛み合わなかったとか、小学校低学年レベルの話を娘から聞かされるたびに、いつまでそんな男と付き合っているのかと、決まって喧嘩になるのだ。

「葵ちゃんならもっと素敵な彼ができるはずよぉ〜」とまわりにも(主に身内だが)言われる。
私も「あおい」という名前には、癒し系の可愛い女子が多いと思う。
宮崎あおい、蒼井優(苗字ですが)、葵わかな(これも苗字でした)、そしてH.葵さん!(この講座の受講生です)
そんな可愛い「あおい軍団」の一人をアホなヤンキーに渡すなんて考えられない。
なんのために「お嬢様学校」と言われる地元の私立女子高から女子大まで通わせたのか、私の苦労が無駄になるではないか。

しかし、ヤンキー魂は着実に娘をむしばんでいた。

運転歴実質1カ月にもかかわらず、左ひじをアームレストに置き、右手はパーでハンドルを回す。
前の車を罵倒しながら追い越す(私はこれを「あおい運転」と呼んでいる)。
野球のルールも知らないくせに中田翔がカッコいいと言う。
「湘南乃風」を聴く。
腰パンする。
→その結果私と喧嘩になる。

一方でヤンキーがこちらの趣味に寄せてくることもある。
ニット帽が好きな娘へ、黄×青×白の原色三色の太い縦縞の帽子をくれた。
「ピンポンパン体操か!」と思わず昭和のこども番組で突っ込んでしまうほどダサかった。

その後のプレゼントも部屋の片隅におかれたままだ。
さすがに趣味の違いを自覚したのか、最終的に私の財布と同じブランドのキーケースにしてきた。
これで文句は言われないと思ったのだろうが、車のキーが大きすぎて、そのキーケースには納まらなかった。

残念だが、彼の「寄せ」はほぼ失敗していた。

高校中退後、通信制で高校卒業資格を取り、専門学校を経て車の整備士となった彼は、今のところ真面目に働いている。
私を「ラスボス」と恐れていて、とてつもなく嫌われていることも自覚している。

そんな彼だが、つい先日、某ショップのパネルを見て、こう言ったらしい。

「お前んちの母ちゃん、鈴木京香に似とるな」

・・・いっ、意外といい子じゃないか!!

しばらくは異文化交流を楽しもうかなと思う今日この頃であった。

(終わり)

2018年5月19日 ライター講座課題「わたしの嫌いな〇〇の話」講評

終始大笑いしてしまいました。読み進めるほどにあおいちゃんとヤンキーの彼を応援したくなり、きっとええ子なんやなあと好感も。Tさんのようなお母さんがいてうらやましい。読んで何だか今日はいい日になりそうと、心がほこほこ。そういう文章が私は大好きです。とても面白く、軽妙で洒落た文章でした。読み終わって、前回の息子さんのお話を読み返して、T家、ええなあ・・・としみじみ。息子くんも応援しています。

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岡山在住。 子育てに区切りがつき、好きなことを仕事にしようと長年勤めた会社を辞めてはや3年。 編集・ライター講座に通いフリーライターを目指してみたものの、未だバイト生活。右往左往の日々が続いています。 そんな毎日の中から見つけた、はかなくも楽しい日々のあわを書き留めました。