息子の裏切り(人はそれを「フツーの成長」と呼ぶ)

9月半ば、離れて暮らしている息子とふたりで沖縄へ行った。
台風15号と17号の合間、いいお天気にも恵まれてライブと沖縄を楽しんだ。
私たち親子は好きなアーティストが同じだったので、お金のない大学生と、お金もないけど一人ではライブにも行けない年齢の私は、お互いの利害関係が一致し、よく一緒に出かけていた。
だけど、今年は何かが違っていた・・・

「鍵、返してもらってもええかな?」

12:30、伊丹空港で待ち合わせ、軽く昼食。
「機内のお飲み物は何にする?」
「俺、コンソメスープ!」
「アホの一つ覚えか!」
小さい頃から飛行機でコンソメスープを飲むのが楽しみだった息子との、ほっこりする時間、のはずだった。
「母さん、あの・・・」

「母さんが持ってる僕の部屋の鍵、返してもらってもええかな?」

えっ!!!!!

久々に息子に会えた嬉しさと、これから沖縄へ向かうウキウキとした感情が、一瞬です〜っと冷めていった。いつか言われると思っていたけど、まさか、ホントに、今、この場で、突然、言われるとは!

いつまでも子どもだと思っていた子どもの(ややこしい)、親離れの瞬間だった。(そんな大げさな…)
年に1、2回しか使わない合鍵だったけど、大事なものをもぎ取られた気がした。目の前にいる中2の顔した息子が、急に大人びて見え・・ることはなかった。(相変わらず中2の顔だった)

おそらく(というか絶対)、その鍵は最近できた彼女に渡すのだろう。
わかっている。わかっているよ。

この気持ちは彼女への嫉妬とかではない。イケてない息子の容姿から考えて、彼女が出来るなんて奇跡に等しい。むしろ彼女には心の底から感謝している。
突然の要求に動揺したのだ。
嫁ぐ娘から「長い間お世話になりました」と言われたときの気持ちと同じかもしれない。(知らんけど)
「鍵返して。」ではなく「鍵返してもらってもええかな?」と回りくどい言い方も、息子の気遣いが感じられて逆に癪にさわった。

これらの感情がぐるぐる駆け巡ってはいたが、海鮮炒飯を頬張りながら、秒で答えた。

「journalstandardでchampionのTシャツ買ってあるから、それと一緒に送るわ」

余計な説明をつらつら加えて、恩着せがましく言っておいた。


機内で美味しそうにコンソメスープをすする息子を恨めしそうに見ながら、ホントに返そうかどうしようか、ずっと迷っていた。(はよ返したれよ!と突っ込まれるかもしれないけど)

しかし、裏切り行為(?)はこれだけではなかった。

「彼女連れて行くわ」

沖縄のライブには好きなアーティストがゲストで出演していた。今までもフェスの30分だけの出演だと物足りなくて「やっぱり単独ライブ行きたいよな〜」と、お互い何度も口にしていた。

沖縄から帰って3日後、絶妙なタイミングで単独ライブが決定した。
早速息子にラインした。当然「行く行く!」の文字を期待して。

甘かった。

「彼女連れて行くわ」

ええっっ!!!

あれほど「単独ライブに行きたい」と口にしていたのに! 舌の根も乾かぬうちに、僕は彼女と行きます、母さん今までありがとう宣言。(そんなことは一言も言ってないけど)
他のライブなら全然構わない。でもこの単独ライブは行きたいのよ〜!!(この時の私には「ひとりでライブ」という選択肢はなかった)

翌日もこのショックから抜け切れないまま、ただただ本を書架に戻す図書館のバイトをしていた。

・・・待てよ。
本を置いた瞬間、ある考えがふと頭をよぎった。

「連れて行くわ」?

「連れて行く?」・・・彼女を連れて行く? 親子で行くライブに彼女を連れて来るってこと? 3人で? まさか! いや、そうかも、そうに違いない。彼女に連れて行ってとせがまれて断りきれずに3人で行くのか。やっぱり息子は優しいな(というか優柔不断)。
でもそうなったら「気持ちだけいただくから、ふたりで行っておいで」と言おう。
バイトの間中、あの言葉の意味を捻じ曲げて自分に都合よく解釈しようと必死だった。

家に帰って、早速娘にラインを見せた。
「この『連れて行く』は、3人で行こうってことだと思う?」
「そう取れなくもないけど。直接聞けば?」
「そ、そうね」
母親の揺れる心の機微など知る由もないド天然の娘に聞いたことを即座に後悔した。「それは3人という意味じゃね⁉︎」の答えを期待していた私がバカだった。
そしてすぐに息子にラインした。

私:ちょっと確認するけど、あなたたち2人で行くんよな?
息子:せやな  
私:もしかして3人で行くつもりかなぁ〜と思って
息子:ええええええええぇえぇ!
私:ずっと母さんは「行きたい」言うてたよな(💢)
息子:さ、3人で行くかい?
私:それは無理


こうして私は子どもから巣立ったのであった。

(終わり)

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岡山在住。 子育てに区切りがつき、好きなことを仕事にしようと長年勤めた会社を辞めてはや3年。 編集・ライター講座に通いフリーライターを目指してみたものの、未だバイト生活。右往左往の日々が続いています。 そんな毎日の中から見つけた、はかなくも楽しい日々のあわを書き留めました。